みみずく先生の研究室
絵本学―世代越える魅力伝える

 この世に生まれて、たった一度も絵本を手にしたことのない人は、おそらくいないだろう。 絵本は人間が生まれて初めて出会う心の栄養剤。 子どもから大人まで、あらゆる世代に開かれ、世代を越えて共有できる文化財ともいわれる。 その絵本を児童文学、美学、芸術学、心理学、教育学、保育学などなど、幅広い領域から総合的にとらえ、研究していこうというのが絵本学の目的である。
 美術史家の香曽我部秀幸さん(49)は、絵本の魅力にとりつかれ、この十数年、絵本研究に携わってきた。 福音館書店から刊行されている「こどものとも」シリーズを、1956年の創刊当初にさかのぼって調べているうちに、実は自分自身が幼いころに愛読していたことに気づかされた。
 日本の近世、近代美術史が専門だが、「明治以降の美術史で、絵本がすっぽり抜け落ちている。 絵本は、世代間に共有の美意識を育てるのに大きな力を持っている。 それなのに、『たかが絵本』と不当に低く評価されている」との思いが強い。
 神戸親和女子大などで美術史や絵画実技を教えるかたわら、「絵本の素晴らしさを少しでもわかってほしい」と、十年前から絵本原画展を企画、監修し各地で開いている。
 97年5月の発足にかかわった絵本学会は、会員が約500人。 研究者だけでなく作家や画家、デザイナー、学校や幼稚園の先生、図書館司書ら幅広いジャンルから参加している。 地域や家庭で文庫を開いているお母さんたちが加わっているのも大きな特色だ。
 企画委員長である香曽我部さんは、大会のほかに作り手と読み手が一緒になって考える場をつくろうと年に2回「絵本フォーラム」を開いている。
 長引く出版不況は絵本の世界も襲っている。 絵本専門店が店じまいしたり、売り場が縮小されたりしている。 だが、そんなことではひるまない。 「テレビや漫画、コンピューターゲームなど子供を取りまく文化の多様な選択の中で、独自の魅力を発揮し、価値あるものとして絵本を伝えていくことが、学会の大きな使命」と力説する。

1999年7月19日 朝日新聞掲載
(著者了解済)